大阪地方裁判所 昭和40年(行ウ)114号 判決 1966年9月12日
原告 谷島庄司
被告 淀川税務署長
訴訟代理人 氏原瑞穂 外三名
主文
被告は昭和三七年一二月二一日付で原告の昭和三六年度分の所得税についてなした更正決定のうち課税総所得金額一〇、八七四、四〇〇円を超える部分、および過少申告加算税賦課決定のうち五六、三〇二円を超える部分を取消す。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は全部被告の負担とする。
事 実 <省略>
理由
一、請求の原因第一項は当事者間に争がない。
二、被告は原告の昭和三六年度分の課税総所得金額は一三、三七四、四〇〇円であると主張するので判断する。
原告の右年度分の配当所得が四八、六五二円、営業所得が三九七、九〇〇円であることは当事者間に争がない。そして被告はその主張の譲渡所得一三、三二五、一四五円は原告が訴外会社に譲渡した本件土地代金について生じたものであると主張するので検討するに、<証拠省略>によると原告が本件土地を所有していたのであるが、訴外会社は訴外京阪神急行株式会社から本件土地を買受けるよう依頼され、昭和三六年九月頃原告に対し本件土地を訴外会社に売渡すよう申込れたところ、原告が本件土地附近に代替地を入手できるならば売渡してもよい旨答えたので、訴外会社は訴外森本に森本所有地を売渡す意思のあることを確認したうえ訴外森本を原告に紹介したこと、そこで原告は訴外森本と交渉した結果森本所有地を買受けることができるという目途がついたので、同年一〇月四日訴外会社に対し右土地を取得できることを条件に本件土地を代金は二六、五九五、〇〇〇円とし、同日五、〇〇〇、〇〇〇円を受領して残金を同年同月二一日までに所有権移転登記に必要な書類と引換えに受領するという約束のもとに売渡しその旨の契約書を作成したこと、ところが、原告と訴外森本との間の森本所有地についての売買の交渉が右土地の引渡期限等々めぐつて円滑に進行しなかつたので原告は同年同月八日頃、訴外会社に対し本件土地売買についての右一〇月一二日の決済期日を延期してもらいたい旨申入れたこと、そこで訴外会社は早急に本件土地を入手したうえ、その地上に建物を建築する準備に着手する必要があつたので原告と関係なく訴外森本に対し森本所有地(この土地上には訴外森本の居宅と訴外森本メリヤス株式会社の工場があつた)を早く原告に明渡すよう交渉し訴外森本との問において、訴外会社が訴外森本に対し移転補償費等として五、〇〇〇、〇〇〇円を支払い、訴外森本、同森本メリヤス株式会社ができるだけ早く転移先を整備して右土地を原告に明渡すことを約し、原告に対してはその旨告げて早急に訴外森本と森本所有地を買受ける契約を結んで前記約旨のとおり同年一〇月一二日に本件土地の取引の決済をするよう求めたところ、原告が訴外会社に対し本件土地の売買契約書の特約条項として、「買主は売主が代替地として取得するために必要な森本メリヤス株式会社の移転費その他の補償費として五、〇〇〇、〇〇〇円を負担するものとする」と記入することを求めたのでその記載をし、予定どおり同年同月一二日に残代金を支払つて本件土地の所有権移転登記に必要な書類を受領したこと、その後原告は同年同月二〇日に訴外森本との間において森本所有地とその地上建物を代金一四、五〇〇、〇〇〇円で買受ける契約を締結したことがそれぞれ認められ、(原告が本件土地を訴外会社に譲渡したこと、訴外会社は訴外森本に五、〇〇〇、〇〇〇円を支払つたことは当事者間に争がない)他に右認定に反する証拠がない。以上の認定事実によると原告が訴外会社に対して売渡した本件土地の代金は二六、五九五、〇〇〇円であつて、訴外会社は訴外森本に対して支払つた五、〇〇〇、〇〇〇円は訴外会社において原告と訴外森本間の森本所有地の売買契約を早急に完結させて本件土地の所有権を確保するために支出したものであり、原告にとつて如何なる意味でも本件土地の対価として取得したものということはできない。ところで本件土地の取得価額が四、〇〇五、一七〇円、譲渡経費が七九〇、〇四〇円、譲渡所得控除が一五〇、〇〇〇円であることは当事者間に争がないから原告の本件土地譲渡によつて生じた譲渡所得は本件土地の譲渡価額二六、五九五、五〇〇円(前記認定のとおり本件土地の譲渡価額は二六、五九五、〇〇〇円であるが原告が二六、五九五、五〇〇円であると主張するのでこれに従う)から右取得価額、譲渡経費、譲渡所得控除の合計額四、九四五、二一〇円を差引いた二一、六五〇、二九〇円の二分の一の一〇、八二五、一四五円となる(所得税法第九条第八号)
そうすると原告の昭和三六年度分の所得税の所得額は配当所得四八、六五二円、営業所得三九七、九〇〇円、譲渡所得一〇、一二五、一四五円の合計額一一、二七一、六九七円となる。そして生命保険控除が一七、一九八円、配偶者控除が九〇、〇〇〇円、扶養控除が二〇〇、〇〇〇円、基礎控除が九〇、〇〇〇円であることは当事者間に争がないから課税総所得金額は右一一、二七一、六九七円から右所得控除合計三九七、一九八円を差引いた一〇、八七四、四〇〇円(一〇〇円未満の端数は切捨て)となる。
三、次に過少申告加算税額について検討する。
右認定のとおり原告の課税総所得金額は一〇、八七四、四〇〇円であるからこれに対する税額は四、六六八、四二〇円となり、これから当事者間に争のない配当控除四、八六五円、源泉徴収税額四、八六四円を控除すると納付すべき税額は四、六五八、六九一円となる。ところで原告の申告税額が三、五三二、六五〇円であることは当事者間に争がないところ、右納付すべき税領から右申告税額を差引くと一、一二六、〇四一円となり、この金額について一〇〇分の五の割合による法定の過少申告加算税が賦課されることになるのであるが、その金額は五六、三〇二円となる。
四、そうすると被告が昭和三七年一二月二一日付で原告の昭和三六年度分の所得税についてなした更正決定のうち課税総所得金額一〇、八七四、四〇〇円を超える部分、過少申告加算税賦課決定のうち五六、三〇二円を超える部分は違法なものとして取消を免れず、原告の請求のうち右認定を超える部分は失当として棄却すべきものである。
よつて訴訟費用の負担については民事訴訟法第九二条但書を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 石崎甚八 長谷喜仁 福井厚士)